vol.5 長屋タイプの団地をリノベし、夫婦で夢の開業!「パン処とと屋」

明舞団地に転入する人たちの中には、居住だけでなく、団地をリノベーションし、店舗を開業する人もいます。今回は、明舞団地にある長屋の物件を活用したパン屋さん「パン処とと屋」(以下「とと屋」)を夫婦で経営する、渡辺涼介さんにお話をうかがいました。

 

「30歳までに自分の店を持つ」
地元・明舞で夢をかなえた

「とと屋」がオープンしたのは2015年11月。明舞団地の北部に位置する長屋タイプの物件をリノベーションしてつくられ、現在は地元住民だけでなく、遠方からも多くのお客さんが訪れるほど人気のパン屋さんです。

天然木のぬくもりを感じる商品棚には、創意工夫溢れるさまざまな種類のパンがぎっしり。兵庫県産の小麦や、地元の農家から仕入れた果物などを用いたパンは口コミでも大人気。朝からひっきりなしにお客さんが訪れ、夕方にはほとんど売れてしまうそうです。

店主の渡辺さんは、現在30歳。お店からほど近い、地元・神陵台の出身です。これまでは個人店から大手まで、いくつものパン屋で修行を積みながら、30歳になるまでに自分の店を持つことを目標にしてきました。

開業する場所にこだわりは持っていなかった渡辺さんですが、知人でもあるこの物件のオーナーから「自由に使ってみないか」と話があり、ここで開業することに。明舞団地の雰囲気には昔から馴染みがあり、夫婦2人で営むのにちょうどいい大きさだったことから、決心に至ったそうです。

 

リノベーションは業者に依頼
こだわりはオープンキッチン

こちらの物件は築50年以上で、改装前はいわゆる“ボロボロ”の状態でした。しかし、長屋の隣物件ではお姉さんがすでにドッグサロンを営んでいたり、他にも長屋物件をリノベーションしたカフェがあったりと、参考になるお店があったため、リノベーションのイメージはしやすかったそうです。

長屋の隣物件(手前)では、渡辺さんのお姉さんがドッグサロンを営んでいます。

リノベーションは、お店の内外装だけでなく、パン屋の専門的な機材についても対応できる業者に依頼。レイアウトや内装について細かいこだわりを伝え、約半年間にわたる大工事を行いました。

リノベーション前の物件の外観。

リノベーション前の内側(左:玄関を入ったところ、右:お風呂場)

工事の第一段階では、壁や設備を全て解体し、スケルトンの状態にしました。(上記写真と同じ箇所)

内側の壁や設備はすべて解体し、一度スケルトンの状態に。お店の入り口や売り場になる部分を増築するため、1階部分の外壁も壊し、新たに基礎をつくりました。

正面の壁をこわし、増築する店の入り口部分まで新たに基礎をつくり、コンクリートを流し込みました。

壁を壊した部分に、店舗の入り口や売り場となる部分を木造で増築しました。

驚くほど劇的な変化を遂げ、完成した店舗は、渡辺さんのイメージどおり。中でも一番のこだわりは、カウンター越しにパン作りの様子が見える、オープンキッチンにしたこと。お客さんに作業行程を見せることで、視覚的にも安心してもらえるよう工夫しました。

設置したばかりのカウンター。売り場(右側)とキッチン(左側)とを完全に仕切らず、お客さんからパン作りの様子が見えるように工夫しました。

機材が搬入し、完成したキッチンの様子。カウンターからこのキッチンが見えます。

 

明舞は”人があたたかい”
地域に愛されるパン屋さんに

こうして始まった「とと屋」。口コミで評判はどんどん伝わり、4年目を迎えた今、しっかり軌道に乗ることができています。 

それもひとえに「明舞の人がとてもあたたかいから」と渡辺さん。「若い2人が頑張っているのを見たら応援したくなるわ」と、毎日通う高齢のお客さんもいて、渡辺さん夫婦を見守ってくれているそうです。

また、明舞の中でもこのあたりは、古い住宅が分譲され、比較的若い世帯が多いエリア。お客さんの中には子連れのお母さんも多く、地域の老若男女に愛されています。

取材中にも、常連の若い女性がお店にやって来ました。「ここのパンが私の中で一番です」と、足繁く通っている様子。

お店以外でも、明舞団地内の商店街で定期的に開催される「青空市」に出店したり、地元の幼稚園の行事や近所のカフェにパンを提供したりと、パン屋ならではのやり方で、地域とのつながりを深めています。

 「おじいちゃんになっても、この場所でずっと愛されるパン屋さんでありたい」と語る渡辺さん。古くからの団地という、住民との距離が近い場所で、家族で営業できる適度な規模感だからこそ、描ける未来像なのかもしれません。

気になる”団地で開業”は
コスト面のメリットも

古い団地での開業は、その古さが逆に新鮮に感じられたり、初期投資は大きくても、駅前など好立地のテナントと比べランニングコストを抑えられたりと、メリットはたくさん。「とと屋」に刺激を受けたのか、渡辺さんの元には時折、物件についての問い合わせがあるそう。

あいにく、現在はこちらの長屋物件の空き情報を管理するしくみはないのですが、開業を目指す人たちに注目されていることがうかがえます。空き家問題の新しい解決策として、明舞団地での開業を支援するしくみができる日も、そう遠くはないかもしれません。

 「自分のお店を持ちたいな」と考えている人は、ぜひ一度「とと屋」を訪れて、団地の可能性を感じてみてください。

<リンク>
「パン処とと屋」ブログ
https://ameblo.jp/pandokorototoya/

 <ライター:村崎 恭子>

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