vol.6 「リノベ学校」最後は完成披露会!メゾネットを活かした空間設計に

2018年10月より始まった「リノベ学校」も、3月末でいよいよ最終回。この日は、初回にリノベ前の状態を視察し、その後みんなで案を出し合ったメゾネットタイプのモデル物件の完成披露会。工事前に問題視していた箇所はどのように解決されたのでしょうか?また、施主であるTさんに、今回のリノベについてうかがいました。

 

1階は「生活」のスペース。
課題だった水回り問題も解決!?

第3回リノベ学校で、Tさんは参加者の前で進行中の計画を発表。メゾネットタイプの「空間が分断される」というデメリットを逆手に取り、夫婦2人での生活に合わせたスペースの切り分けを試みるということでしたが、最終的にはどのように実現したのでしょうか。

まず、1階部分には「生活」にまつわるものを配置。キッチン・ダイニング・お風呂・洗面・洗濯機置き場・トイレと、水回りを中心に日常生活に不可欠なものが揃っています。

中でも目を引くのはキッチン。元々は壁付けだったものをカウンター式に変更しました。奥様曰く「L字型なので会話がしやすく、家事分担もやりやすいんです」とのこと。外の景色を見ながら料理できるのもポイントです。

L字型のキッチンは、一人がコンロ、一人が流しで作業をするなど、家事の分担がしやすい。

Tさんが最もこだわったのは、リノベ学校でも始めから問題視されていたお風呂。洗面台がお風呂場にあったり、風通しが悪くカビが発生しやすかったりと、不便だった点をすべて解消。新たに換気扇が入り、洗面台を別に設けることができたのを見て、参加者からは「理想通りにできるものなんですね」と感心の声が。また、ベランダの洗濯機置き場は室内に新設しました。

お風呂場と洗面台とのセパレートを実現。

左:階段下を活用した洗面台。 右:その手前には、内側がピンクの囲いをつけた室内洗濯機置き場を設置。

トイレはリノベ前と同じ場所。壁や扉の色味を明るいものにしました。

 

 

ゆるやかに分断した2階は
「くつろぎ」のスペースに。

2階部分へとのぼる階段は、リノベ前には「暗い雰囲気」という課題があった場所。光を遮る原因となる階段上の壁を取り除くことで、ほどよく2階からの光が入るようになり、1階と2階との分断感も前よりゆるやかになりました。

階段上の壁を取払い、2階から風や光がほどよく入るように。

 

そして2階に上がると、仕切りの壁がまったくない、開放的な「くつろぎ」の空間に。階段上を本棚でぐるりと囲い、壁にはオープンクローゼット、そして日当りのいい南側には、収納を兼ねた小上がりをつくりました。

2階は壁のない、開放的な空間。

階段まわりには一面の本棚を設置。階段を中心に、北側と南側とで役割を分けました。

南側には、収納を兼ねた小上がりを設置。この上にちゃぶ台を置き、来客時はここで過ごす予定だそう。

壁一面にオープンクローゼットを設置。押し入れがなくても、収納力は十分。

 

階段の北側の広いスペースには、ベッドを置き寝室にする予定。Tさんの当初の計画どおり、家事にまつわるものを全て1階に集約することで、2階は見事に、シンプルでゆったり過ごせる空間になりました。

 

自らが実験台となり、
団地暮らしの価値を上げたい

この物件の施主であるTさんに、今回のリノベを行うきっかけをうかがうと、Tさんからは、「実験台になろうと思った」と、意外な答えが。一体、どういうことなのでしょうか。

この物件の施主であるTさんご夫妻。いずれは東京へ戻る計画があるので、こちらは“終の住処”ではないそうです。

 

防災に関わる仕事をするTさんは、共同研究を行う大学との関わり合いの中で、団地の現状を知ったそう。自身が団地育ちということもあり、「今、団地が地域のお荷物になりかけている状況を知り、なんとかしてあげたいと思った」とのこと。自らが団地での暮らしを実践し、良くも悪くも発信していくことにしました。

Tさんが重視し、団地の魅力と捉えているのは、50 年以上前に団地を開発・設計した人の意図。“自然との調和”を考え設計された団地には、駅前の高層マンションよりも自然が身近にあったり、急傾斜地に建てた新築の家よりも土砂災害のリスクが低かったりと、魅力はたくさん。「団地は安いだけではなく、安全で快適な住まいなのではないか」と話します。

今回の物件の購入価格は、なんと100万円。買い手が少ないために破格なのですが、「こんな価格で売買されるような状況を脱しないといけない」とTさん。自らが団地をリノベーションし、快適な暮らしぶりを発信することで、団地の価値を高めていきたいと考えています。

 

最後はみんなで振り返り。
映画『人生フルーツ』上映会も

Tさんのお宅を見学した後は、リノベ学校の参加者・関係者で集まり、振り返りや意見交換会を実施。実際の工事費用など赤裸々な質問も飛び交い、団地リノベの可能性を探りました。

それぞれ「リノベ学校」の感想も発表。全員が、「ここまで変わるとは」と驚いていました。

 

工事にかけた費用は580万円で、リノベ費用としては少し高め。角部屋だったために外壁面の断熱工事が多かったことや、Tさんがデザインにもこだわったことがその理由です。角部屋でなければ、300万円くらいから可能だそう。講師の清水氏からは「断熱を入れて結露対策をするだけでも十分」とのアドバイスもあり、リノベーションの幅の広さがうかがえました。

ただ、今回の支払いを10年間のローンにすれば月に5万円で、利息はわずか20万円。「この程度の出費でおもしろく住めるのなら」と、参加者にはTさんのような本格的なリノベーションが魅力的に映っているようでした。

また、Tさんのお宅のように大掛かりな工事ができたのは、明舞団地の管理組合の柔軟さのおかげだそう。団地によっては制限が厳しく、水回りの位置や床材を変えるのが許されないところもあり、Tさんは「新しい人を呼び込むには、団地自身も変わることが求められる」と話していました。

今回のリノベ学校を通じ、明舞在住の参加者は「悪いイメージばかりの明舞に、Tさんが新しい風を吹き込んでくれた」、学生は「新築よりもリノベのほうが温かみを感じた」など、前向きの感想ばかり。中には、「もっと色んな事例を見たい」「次はTさんの住み心地を聞きたい」など、今後への期待の声もありました。

同じ日のリノベ学校終了後、Tさんが大切に考える“団地をつくった人のストーリー“を描いた映画『人生フルーツ』を地域住民と一緒に鑑賞。舞台は明舞団地とほぼ同じ時期につくられた、愛知県の高蔵寺ニュータウンで、明舞と通じる部分も多くあり、参加者に設計者の意図を知ってもらいたいという思いから、リノベ学校内で出たアイデアを元に企画しました。

 

最後は映画「人生フルーツ」の上映会。

 

この春から始まったTさんの団地生活、はたしてどんな暮らしになるのでしょうか?今後、明舞団地だからこそできる素敵な暮らしぶりをTさんが発信することで、「私も団地暮らしをしたい」と感じる人が増えていくのではないでしょうか。明舞団地がどのように変化し、価値が高まっていくのか、これからの動きがとても楽しみです。

 <ライター:村崎 恭子>

 

 

 

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